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Computational Psychiatry

福原玄|計算論的精神医学(CPSY)研究者

NCNP共同研究者/日本語会話における相互行為特徴量の定量化/会話相互行為計測ツール Turn Lens 開発

日常会話における人と人の相互行為を、定量的かつ再現可能に測れるか。
この一点を追っています。

相互行為特徴量 ターンテイキング 応答潜時 同調 CEJC Ridge / 置換検定 成人発達支援

研究者としての立場

福原玄です。計算論的精神医学(CPSY: Computational Psychiatry)を専門とする研究者です。「日常会話における人と人の相互行為を、定量的かつ再現可能に測れるか」という一点を追ってきました。

2025年11月からはNCNP(国立精神・神経医療研究センター)共同研究者として、「日本語会話における相互行為特徴量の定量化指標」の研究リードを務めています。日本語日常会話コーパス(CEJC)から4カテゴリ19の相互行為特徴量を定義し、4つの大規模言語モデル(LLM)が推定したBig Five性格スコアとの関連から、指標の妥当性を検証しています。

重視しているのは新しさより手続きの厳密さです。Ridge回帰、置換検定5,000回、Bootstrap分散分析500回、感度分析、交絡統制、そして自分の結果を反証するために設計したベースライン条件。結果はHolm補正後、Big Five の5次元すべてで有意でした(r = 0.254–0.423)。最も高いのは誠実性(C, r = 0.423, 補正後 p = 0.0040)。ただし外向性(E)は補正後 p = 0.0490 と有意水準の直下にあり、境界的な結果として扱っています。特定の次元を主結果に選ばず、5次元を同等に扱う方針です。

この計測パイプラインは「Turn Lens」というツールになりました。その開発を主題とした演題が、第13回成人発達障害支援学会 高知大会(2026年9月)でポスター発表として採択されています。

研究:相互行為特徴量の定量化

Lead lea × NCNP 共同研究「日本語会話における相互行為特徴量の定量化指標」。会話分析で質的に記述されてきた現象を、大規模コーパスに対して定量的・再現可能に計測する指標セットとして体系化しています。

PG · 9 変数

発話タイミング系

発話率、沈黙長、応答の間(応答潜時)、重なり率、沈黙長の変動性。会話のテンポそのものを捉えます。

FILL · 2 変数

フィラー系

フィラー出現発話率、100字あたりのフィラー率。言い淀みの使用傾向を捉えます。

IX · 5 変数

連鎖組織系

修復開始率、質問直後の修復開始率、YES/NO応答率、語彙的重なり。隣接ペアと修復連鎖の組織化を捉えます。

RESP · 3 変数

応答型系

終助詞(「ね」等)に対する応答の型。相槌の偏りなど日本語固有の相互行為を捉えます。

19
相互行為特徴量
(Classical 10 / Novel 9)
120
分析レコード
(会話×話者)
74
話者
(66会話)
4
LLM評定者
(IPIP-NEO-120)

手続き

新しさより手続きの厳密さを優先します。以下はすべて、結果を強く見せるためではなく、結果を疑うために置いた手続きです。

  • データ選定:CEJC の自宅・2者間会話140件を会話×話者の378レコードに展開し、発話ペア数 ≥80/文字数 ≥2,000/質問直後ペア数 ≥10 をすべて満たす120レコードのみを採用(258レコードを除外)。
  • リーク統制:Ridge回帰(α = 100)を GroupKFold による subject-wise split の5-fold CV で評価。同一話者が訓練foldと検証foldに跨らないことを担保。
  • 置換検定:5,000回。モデル全体の相関係数と個別回帰係数の両方を検定。
  • 多重比較補正:Big5 の5次元=5回の独立検定として Holm-Bonferroni 法を適用。
  • 係数安定性:Bootstrap 500回で回帰係数の SD と 95%CI を算出。CI がゼロを跨がない特徴量のみを安定寄与と判定。
  • 交絡統制:相互行為特徴量のみの Model A(19変数)と、性別・年齢を加えた Model B(21変数)を比較。O・C・A・N は統制後も有意性を維持し、関連が人口統計の交絡に還元されないことを確認。
  • 感度分析:正則化パラメータ α = 10 / 50 / 100 / 200 / 500 で結果の安定性を確認(C: r = 0.409–0.423)。O・C・A・N は全範囲で有意。E のみ α = 10 / 50 で有意水準に達さず、α 依存であることを明記。
  • CV設計の比較:subject-wise split(GroupKFold)と通常のKFoldを比較。O・A では KFold の方が高い r を与え、話者リークによる楽観バイアスと整合。本文は全次元で subject-wise split の値を採用。
  • 反証用ベースライン:条件1(テキストあり)/条件2(要約のみ)/条件3(ランダムテキスト、乱数シード42)を比較。条件3では全5次元で有意性が消失し、陰性対照として機能。
  • Dose-Response 実験:会話テキスト中のフィラー量を ×0 / ×1 / ×3 に操作し、LLMのCスコアが対応して動くかを検証。ΔC = −0.012(0–4スケールの0.3%)で変化は検出されず、フィラー系指標は相関的な関連因子であって採点の因果的決定因子ではないと解釈。
  • 段階的モデル比較(探索的):Stage 1(人口統計のみ)→ Stage 2(+Classical)→ Stage 3(+Novel)の3段階。本標本では N のみ有意な増分(ΔR² = +0.069)で、本文の主張の根拠には用いていません。

主結果

相互行為特徴量から仮想Big5スコアを予測した置換検定の結果。Holm補正後、5次元すべてで有意でした(r = 0.254–0.423)。次元間の差は大きくありません。

Ridge回帰(α = 100、5-fold GroupKFold subject-wise CV)+置換検定5,000回、Holm補正。robs は fold 平均 Pearson 相関係数。目的変数は4つのLLM(Claude Sonnet 4 / Qwen3-235B / DeepSeek-V3 / GPT-OSS-120B)による IPIP-NEO-120 item-level 平均の仮想Big5スコアであり、質問紙による実測値ではありません。
出典:論文原稿 2026年9月7日版 表4。
Big5 次元 robs p(補正後) 判定
C — 誠実性0.4230.0040*
N — 神経症傾向0.4100.0072*
A — 協調性0.3970.0072*
O — 開放性0.3370.0124*
E — 外向性0.2540.0490* 境界的

特定の次元を主結果に選ばない

5次元すべてが有意で、r は 0.254–0.423 の狭い範囲に収まります。ここから1つを選んで「最も強い関連」と書くのは、事後的な選択になります。そのため5次元を同等に扱います。参考として、LLMモデル間一致度は C が最高(r̄ = 0.699)、A が最低(r̄ = 0.435)で、個別モデルでは C・A・O・N が4モデル中3モデル、E のみ1モデルで有意です。

寄与する特徴量は次元ごとに違う

置換検定 p < 0.05 かつ Bootstrap 95%CI がゼロを除外した「一致特徴量」は計23個。次元別に 2〜7 個(A: 7、O: 6、C: 5、E: 3、N: 2)で、構成は次元ごとに異なります。タイミング系は5次元すべてに寄与し、新たに定義した連鎖組織系・応答型系は5次元中4次元で寄与。23個のうち9個が新規特徴量で、N では2個ともが新規でした。

陰性対照は機能した

テキストと話者の対応関係を崩した条件3(ランダムテキスト)では、全5次元でHolm補正後に有意性が消失(r = −0.179〜0.201, p ≥ 0.587)。条件1 との差は Δr = +0.195〜+0.589 で、全次元で条件1 が優位でした。

個人差は確かに捉えている

コーパス基本情報との関連では、13の特徴量が年齢と有意に相関(重なり率 ρ = 0.500、発話率 ρ = 0.447、フィラー出現率 ρ = 0.442 など)。発話率・沈黙長は性別とも有意に関連しました。

Turn Lens:会話相互行為計測ツール

論文の計測パイプラインを、当事者自身が手元で使える形にしたツールです。QRを読み取り、同意、録音、自動で可視化。結果はご本人の端末にのみ表示されます。

成人期の発達障害では、会話のテンポ・ターンの取り方・間の置き方のずれが対人関係の困難につながりやすい一方、「何が」「どう」ずれているのかは当事者自身にも見えにくい。既存の相互行為指標は専門家による分析を前提としており、本人が自分の会話を手元で振り返る用途には設計されていません。

Turn Lens は、この空白を埋めるために作りました。ねらいは診断でも助言でもなく、当事者とその会話相手が、お互いを責めずに会話を振り返る手がかりを持てるようにすることです。

実用例
発表者+配偶者の2名による2会話(2026年6月2日/7月20日、同意取得済み)を自動収録・自動解析。
会話A
一方が場の85%を占め(85:15)、応答の間が基準の4.4〜4.8倍(z = +7.45)。「自分が話しすぎていた」との気づきが得られた。
会話B
フィラー率が突出(z = +5.54)。同一ペアでもレーダーの形が明確に変わった。両会話ともオーバーラップ率 0.000。
新たな気づき
フィラーの多さと割り込みの無さは、本人が事前に想定していなかった特徴だった。
位置づけ
研究目的の試用であり、医療行為ではありません。短い会話では数値が大きく出ます。
ポスター「会話相互行為の定量指標にもとづく会話可視化ツールTurn Lensの開発と実用例報告」(第13回成人発達障害支援学会 高知大会 2026)
第13回成人発達障害支援学会 高知大会 2026 発表ポスター
福原玄1,* ほか(1合同会社Lead lea/NCNP共同研究)
本ポスターは2026年8月時点の解析結果に基づきます。ポスター中の「5次元中4次元で有意」「最も高いのは協調性 r = .449」は、2026年9月7日改訂版の論文(上表)では「5次元すべてで有意」「最も高いのは誠実性 r = 0.423」に更新されています。最新値は上の表をご覧ください。 クリックで拡大

関心領域

01

会話相互行為の定量化

ターンテイキング、応答潜時、同調。質的に記述されてきた現象を、再現可能な数値として扱う。

02

計算論的精神医学と成人発達支援における計測

支援現場で当事者自身が使える計測とは何か。診断ではなく、振り返りの手がかりとしての指標。

03

再現可能な評価設計

リーク統制、多重比較補正、感度分析。結果を強く見せる設計ではなく、結果を疑える設計。

04

LLMを測定器として使うこと、およびその妥当性の限界

LLMは何を見て採点しているのか。モデル間一致度、内的一貫性、陰性対照で測れる範囲を確かめる。

限界

言えることと言いすぎなことを分けます。現時点で明示すべき限界は以下です。

  • Big5スコアは4つのLLMによる推定値(仮想Big5)であり、質問紙による実測値ではありません。収束的妥当性の検証は今後の課題です。
  • 分析対象はCEJCの自宅・2者間会話に限定した120レコード(66会話・74話者)。場面・関係性を越えた一般化は主張しません。
  • 74名中25名が2件以上の会話に参加しており(レコードの59.2%)、話者内の相関が標準誤差を過小推定しうる。話者内安定性(ICC)の検証は今後の課題です。
  • 新規特徴量(IX系・RESP系)は係数レベルでは5次元中4次元で寄与を示しますが、モデル全体の予測性能を有意に改善するかは本標本(N = 120)では確認できていません。係数レベルの判定は探索的スクリーニングです。
  • 外向性(E)は有意ですが補正後 p = 0.0490 と有意水準の直下であり、境界的です。正則化パラメータを α = 10 / 50 にすると有意水準に達せず、α の選択に依存します。E の一致特徴量は沈黙系3指標に限られ、声量・話題導入・笑いなどを捉える指標が不足しています。
  • 予測値の分布はいずれの次元でも y = x より傾きが小さく、観測値の範囲に対して予測値の範囲が狭いという縮小傾向があります。
  • ベースライン検証の条件2(要約のみ)は予想に反して全5次元で有意でした。ただし Cronbach's α が 0.3 以下に落ちており、入力情報が乏しいときにLLMが表層量へ強く依存することを示す結果と解釈しています。
  • Turn Lensの実用例は同一ペア2会話(N = 1ペア)であり、一般化しません。研究目的の試用であり、医療行為ではありません。
  • 本研究は「性格推定モデルの構築」ではなく「相互行為特徴量の定量化指標の提案」として位置づけられます。Big5との関連分析は、指標の構成概念妥当性を検証する手段です。

論文・発表

ポスター発表・採択 2026.09.04–05

会話相互行為の定量指標にもとづく会話可視化ツール Turn Lens の開発と実用例報告

福原玄1,* ほか(1合同会社Lead lea、共著者:国立精神・神経医療研究センター)

第13回 成人発達障害支援学会 高知大会(一般演題・ポスター、2026年7月28日 採択通知)

大会情報を見る
論文原稿 2026.09.07

日本語日常会話における相互行為特徴量の定量化指標の提案とその妥当性検証

福原玄(筆頭著者・合同会社Lead lea)ほか、NCNP神経研究所疾病研究第七部との共著

日本語会話コーパスにおける、体系的な相互行為特徴量の提案・検証研究。全47ページ、図8点・表14点、再現性検証スクリプトを含む(2026年9月7日改訂版)。

共同研究 2025.11.04–

Lead lea × NCNP 共同研究「日本語会話における相互行為特徴量の定量化指標」

2025年10月29日に承認、11月4日に共同研究契約を正式締結。研究リード:福原玄(合同会社Lead lea)。共同研究者はNCNP神経研究所所属の研究者。

略歴

研究は本業の外から始まりました。実装と運用の経験が、測れる指標を設計する土台になっています。

2026.09

論文原稿を改訂(47ページ)。交絡統制・CV設計比較・Dose-Response実験を追加し、Big Five 5次元すべてで有意な関連を確認。第13回成人発達障害支援学会 高知大会にてポスター発表(Turn Lens)。

2026.07

論文原稿の初版と再現性検証スクリプトを整備。ポスター演題が採択(7月28日)。

2026.02

株式会社ビジョン・コンサルティング Prime AI 執行役員 兼 CAIO 就任。

2025.11

NCNP共同研究者に。「日本語会話における相互行為特徴量の定量化指標」の研究リードを務める。

2025.06

AWSジャパン生成AI実用化推進プログラムに採択。

2025.03

感情解析×実世界型XAI「感響AI®」を提供開始。コア技術を特許出願(商標登録第6956648号)。

2024.06

AWS Summit Japan 2024 登壇。Amazon Bedrockによる波情報自動文書化の社会実装事例を発表(文書化コスト80%削減)。

2023.03–2025.03

株式会社ファーストトレード CTO。ヘルスケアSaaSと生成AI導入を推進。

共同研究のご相談

共同研究・データ共有・追試のご相談を歓迎します。
指標定義や再現スクリプトについてのご質問も、お気軽にどうぞ。

genfukuhara@leadlea.com

福原玄(Gen Fukuhara)
合同会社Lead lea CTO / NCNP共同研究者 / ビジョン・コンサルティング Prime AI 執行役員 兼 CAIO
〒259-0111 神奈川県中郡大磯町国府本郷461-5